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魚のナビゲーション方略

  • 林朋広(Tomohiro Hayashi)
  • 2016年5月13日
  • 読了時間: 4分

放射状迷路を用いた自由選択課題

私達は行ったことのある道、そうでない道をいろいろな手がかり元に判断する事ができる。また、多くの種類の動物において、例えばラットや、ハト、ブタ、カメなど、に対しても同じようなことができるかを調べるための実験が行われてきた。

https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E8%BF%B

その実験を行う際によく用いられる実験装置の一つに放射状迷路というものがある。放射状迷路とは図のような、8本を基本とする複数の道が放射状に伸びた迷路であり、様々な課題を設定でき、動物のいろいろな空間認知能力を調べることができる装置である。

最も一般的な課題の、自由選択課題では、8本全ての道の先に餌を置き、餌を全て手に入れるまでの過程を見る課題がある。この課題では、動物は効率よく餌を回収するために、一度訪れた経路に入らずに餌のあるアームを選択していくことになる。 そのため動物は一度入った道かどうか判断しなければならない。

効率よく餌を回収しようとするとき、無作為に道を選ぶ方法や、反応方略と呼ばれる自分が入ったアームと隣接するアームを選択していく方略がある。反応方略は、直前に選択したアームがどれかわかれば効率的に餌を回収できるため、入ったことがある道かどうかを判断するための目印が少ない場合に効果を発揮する。

キンギョの空間認知能力の検討

谷内・鷲塚・上野(2013)では、魚類のナビゲーション能力を明らかにするために放射状迷路での自由選択課題をキンギョ(和金)に課し、視覚手がかりのりよう可能性に応じてナビゲーションの方略を切り替えるかどうかを検討した。

利用可能な視覚手がかりの異なる以下の3つの条件下で実験を行った

  1. 迷路内の視覚手がかりを利用できない条件(迷路内に何も置かなず迷路外が見える)

  2. 迷路内外の視覚手がかりを利用できない条件(上記 + 迷路の周りを隠す)

  3. 迷路外の視覚手がかりを利用できない条件 (迷路内に目印をおき周囲は隠す)

迷路外手がかりは、実験室内のラックや冷蔵庫等、迷路内手がかりは、色や大きさの異なる人口水草や、石などをであった。

具体的な実験装置の詳細は鷲塚・谷内(2006)を参照していただきたい。

実験の結果

キンギョが迷路内か外のどちらかの手がかりが利用可能な場合、それらの手がかりを利用して入ったことがある道か判断するが、迷路内外どちらの手がかりも利用できない条件の場合は、隣接する道を選択する(直前に入った道を覚える)反応方略へと方略を切り替えることを示す結果となった。

Wilkinson, Coward & Hall (2009) において、ナビゲーション方略はアカアシガメのような爬虫類では切り替えが起き、ラットのような哺乳類では切り替えがおきないが、(Zoladek & Roberts, 1978)とされており、ナビゲーションにおける方略の切り替えは爬虫類、硬骨魚類特有である可能性を指摘していた。今回の結果は硬骨魚類であるキンギョでの切り替え現象を示すものであると考えられると述べていた。

しかし、重要な点としてこの実験では被験体であるキンギョが4匹(1匹は実験の最中に亡くなる)と非常に数の少ない被験体から得られたデータである。そのため、個体数を増やし、視覚手がかりの効果の信頼性や個体間一般生について再検討を行う必要がと著者らは指摘している。

魚類のナビゲーション能力というものも未だ謎が多い分野で興味がそそられる部分も多い。 さらに、鮭などの降海型の魚などは川から海を経てまた川へと非常に長距離を移動するが、そういった場合に何を手がかりとして魚がナビゲーションを行っているのか、今回は視覚手がかりであったが、嗅覚によるナビゲーションも行っていることだろう。水中という我々が住むことのない世界で生きている彼ら魚類の生体について今後の研究の進展が楽しみである。

引用文献 鷲塚清貴・谷内 通(2006)キンギョにおける放射状迷路課題の習得 動物心理学研究, 56(1), 27-33. 谷内 通・鷲塚清貴・上野糧正(2013)キンギョ(Carassius auratus)の放射状迷路遂行における迷路内手がかりと迷路外手がかりの効果 動物心理学研究, 63(1), 79-85.

迷路画像出典:https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E8%BF%B

(林朋広;佐藤暢哉ゼミM1)


 
 
 

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