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自発的コミュニケーションはどうやって伸ばす?―自閉症児へのことばの支援―

  • 荒岡茉弥(Maya Araoka)
  • 2016年5月13日
  • 読了時間: 4分

皆さんは、自分から誰かに話しかける時ってどんなことを考えますか?何を言ったら良いんだろう・・・、どうやって話しかけよう・・・と悩む方もいらっしゃるのではないでしょうか。

実は、自閉症のお子さんも同じ悩みがあり、自分から話すことを苦手にしています。しかし、苦手だからと言って自分から話さなくても良いという訳ではありません。何か困った時、誰かに手伝ってほしい時など、生きていく上で‘自分から人に伝える’ということは意外と重要なのです。

では、どうやって‘自分から人に伝える’スキルを身につけてもらうのでしょうか。こうした自発的コミュニケーションの形成については多くの研究がなされていますが、その中の代表的なものの一つに時間遅延法(Time delay method)というものがあります。

時間遅延法とは、簡単に言うと、ある時間内(2~15秒)に子どもが自分から正しい行動を行うまで、大人があえて働きかけないといった方法です。 もし、子どもが時間内に間違えた行動をしてしまう、あるいは時間内に何も行動できない場合には、こちらから正しい行動を教えます。 右上の図は、時間遅延法を用いて「ちょうだい」という言葉を形成する簡単な例です。①を繰り返すことによって、子ども達は段々と②の流れに移るようになり、自発的な言語を獲得します。

今回はこの時間遅延法を使った研究の中でも、比較的シンプルな研究を紹介したいと思います。

Ingenmey & Van Houten(1991)は、10歳の自閉症の男の子を対象に、時間遅延法を使って自発言語の促進を試みました。使用した場面は、対象児の好きな車のおもちゃで遊ぶ時間・お絵かきの時間です。2つの場面において、あらかじめ子どもの行動に対応した言語を用意しました。そして、時間遅延法の効果を測定するために、以下のような期間に分けて研究を行いました。

1.Baseline期

⇒研究者が、遊んでいる時の子どもの行動に対応した言葉を、すぐに示して真似させた。(例:「車にガソリン入れよう」、「僕は太陽の絵を描いたよ」)

2.Time Delay(介入)期

⇒時間遅延法を取り入れ

た。研究者が、遊んでいる時の子どもの行動に対応した言葉を示す際、8試行ごとに2秒→4秒→6秒→8秒→10秒と時間を遅延させていった。

3.Generalization期

4.Follow up期

⇒Baseline期と同じ方法。介入後に形成された言語が維持されているのかを測定した。なお、Follow up期のデータは5週間後・4か月後であった。

[endif]--さて、結果はどうだったでしょうか。

右の図が各セッションにおける自発言語の反応率です。

上の図が車遊びでの自発言語、下の図がお絵かき遊びでの自発言語の反応を示しています。

このグラフから、Time Delay(介入)期でどちらの場面においても自発言語が増加したことが分かります。車遊びではFollow up期においても自発言語の維持が見られましたが、お絵かき遊びでは、4か月後に自発言語は低下しています。

これは、対象児が4か月の間にお絵かき遊びをしなくなったことが原因とされています。つまり、1度覚えた言語は良く使われる場面では維持されますが、あまり使われていない場面では消えてしまうのです。

以上の結果から、

  • 時間遅延法が自発言語の増加に効果があること

  • 一度獲得した言語は、良く使われる場面では長期に渡って維持されるが、使われなくなった場面では反応が低下すること

が明らかになりました。

いかがでしたか?もし、相手の自発的なコミュニケーションを引き延ばしたい時には、相手が働きかけるまで「待つ」ことも重要だと言えるかもしれませんね。ここで注目したいのは、この介入方法はわざわざ何かを準備する必要があまりないところです。つまり、指導者(お母さんや先生)さえいれば、どこでも誰でも簡単にできるというところが利点です。もし、お悩みの方がいらっしゃれば、一度お試しください。

ただし、なるべく日常的な場面を用いることがおススメです。

引用文献

Ingenmey , R & Van Houten, R (1991) Using time delay to promote spontaneous speech in an autistic child. Journal of Applied Behavior Analysis, 24(3), 591–596.

(荒岡茉弥;米山直樹ゼミM1)

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